京都大学 大学院理学研究科 地球物理学教室 活構造学講座

熊本地震に関する論文が「Science」に掲載されました

阿蘇火山が妨げた熊本の地震断層破壊

京都大学大学院理学研究科の林愛明教授らの研究グループは,2016年4月16日に発生したM 7.3熊本地震直後の現地調査から,阿蘇カルデラを横切る全長約40キロの地表地震断層*を発見しました.更に,阿蘇カルデラ内の活断層と地表地震断層の分布特徴,及び地震と地球物理学データの総合解析により,熊本地震断層の破壊は阿蘇火山のマグマだまりによって妨げられた可能性が高いことを明らかにしました.また,本論文では熊本地震により阿蘇火山の噴火の危険性を再評価する必要があると提言しています.

本研究成果は,2016年10月21日(金)午前3時(日本時間)に米国科学雑誌Scienceにオンライン公開されました.リンク

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【本論文に関する報道】

  • Science Magazine “This volcano stopped an earthquake in its tracks, scientists say” 20th Oct 2016 LINK
  • Eurekalert “Mt. Aso could erupt much sooner, scientists warn” 20th Oct 2016 LINK
  • LIVE SCIENCE “How a Volcano in Japan Halted an Earthquake” 20th Oct 2016, 05:38pm ET LINK
  • COSMOS “Japanese volcano interrupted an earthquake: study” 20th Oct 2016 LINK
  • Phys.ORG “Mt. Aso could erupt much sooner, scientists warn” 20th Oct 2016 LINK
  • 日本経済新聞 “阿蘇山「噴火リスク高まる」京大が熊本地震を解析” 2016/10/21 3:00 LINK
  • 共同通信47news “阿蘇山、新たな噴火リスク 熊本地震でマグマの通り道” 2016/10/21 03:01 LINK
  • 時事通信 “断層破壊防いだ可能性=阿蘇山マグマだまり-熊本地震で現地調査・京大” 2016/10/21 05:08 LINK
  • 毎日新聞 “阿蘇マグマ「横ずれ」止めた 断層破壊で” 2016/10/21 07:00 LINK
  • 読売新聞 “阿蘇マグマ「本震」範囲狭めた可能性、京大グループ発表” 2016/10/21 LINK
  • 産経ニュース “阿蘇山に新たな断層、噴火のリスク マグマの通り道に” 2016/10/21 10:14 LINK
  • 京都新聞 “マグマだまりが断層破壊妨げか 熊本地震で京大教授解明” 2016/10/21 11:50 LINK
  • 朝日新聞デジタル “阿蘇山のマグマ、熊本地震の断層のずれ止めた? 京大” 2016/10/21 13:15 LINK
  • 産経WEST “阿蘇山マグマ、地表の割れ目を抑えた? 京大「別の断層が原因」” 2016/10/21 16:00 LINK
  • 日本経済新聞 “阿蘇山マグマ付近 不安定” 2016/10/21 朝刊13版42面掲載
  • 読売新聞 “熊本地震 阿蘇マグマ 断層破壊防ぐ 京大グループ 大分側の揺れ軽減か” 2016/10/21 朝刊14版35面掲載
  • 関西テレビ “断層のずれが阿蘇山地下のマグマだまりによって止められていたと発表” 2016/10/21 13:11 LINK

  • 1.背景

    日常生活を脅かす地震・火山噴火等をはじめとした地殻運動のほとんどは,プレート運動など地球内部の運動によって引き起こされています.また,大地震はしばしば火山噴火と連動していることが知られていますが,地質学的なデータは不十分のため,火山の存在が地震断層破壊にどのような影響があるのかという点は未だ明らかになっていません.
    そこで本研究では,2016年4月16日に発生した熊本の地震断層の変形構造の特徴と活断層との関係および阿蘇カルデラ周辺域の地殻構造との関連性について調査するため,地震の翌日から半年間,震源域周辺において現地調査を続けてきました.

     

    図1.2016年4月16日に発生したM7.3熊本地震に伴って阿蘇カルデラ内に現れた地表地震断層(断層により形成された地溝帯).阿蘇西小学校の北西側をドローンにより撮影.
    図1.2016年4月16日に発生したM7.3熊本地震に伴って阿蘇カルデラ内に現れた地表地震断層(断層により形成された地溝帯).阿蘇西小学校の北西側をドローンにより撮影.

     

    2.研究手法・成果

    野外調査と地震データ,そして地震発生前後に撮影された高解像度のGoogle Earth画像解析から,今回の地震によって,長さ約40キロにわたる地表地震断層が出現したことを発見しました.道路のアスファルトや畑のあぜ道の亀裂やずれなど,200カ所以上にわたり調査を行ったところ,この地表地震断層の南西部では,主に既存の布田川-日奈久断層帯に沿った右横ずれ断層でしたが,中央~北東部では,この布田川-日奈久断層帯に加えて,未知の活断層が活動したことが今回の調査により明らかになりました.中央部では,布田川断層帯から約5 km南の南阿蘇村と西原村にまたがる俵山(俵山地震断層)などで,最大で2.5 mの横ずれと1 mの隆起がみられ,阿蘇山付近まで10 km以上延びてることを確認しました.そして北東部では,阿蘇カルデラ内部において,北西と南東縁部及び米塚と杵島岳を横切る方向の地表地震断層が出現しました.特に,阿蘇カルデラ西縁部において,北東方向に長さ約9 kmにわたり幅数10メートル,上下約2メートルの落込み帯(地溝帯)構造が直線状に並んでいる地表割れ目帯を発見し,未知の活断層に沿って現れた地表地震断層であることを明らかにしました.この地表地震断層は,本震を引き起こした布田川断層の延長線から外れていますが,これは,阿蘇地域における不均質な地下構造及びマグマだまりの存在との関連性が高いと考えられます.阿蘇カルデラ北西部の地下約6 kmにはマグマだまりが存在するため,流体によって地震断層破壊が妨げられ,直接地表へ伝わらなかったと推測されるからです(図2).さらに,今回の地震により,阿蘇火山の地下において新たなマグマの通り道が出来た可能性があり,再噴火のリスクが高まったことを言及しています.これにより,火山噴火のハザードの再評価を提言しています.

     

    図2.阿蘇カルデラ内における地震断層と地殻構造の関係を表した概念図.布田川断層の北東延長部はマグマだまりの存在により妨げられているが,地表地震断層はカルデラの表層部に現れている.
    図2.阿蘇カルデラ内における地震断層と地殻構造の関係を表した概念図.布田川断層の北東延長部はマグマだまりの存在により妨げられているが,地表地震断層はカルデラの表層部に現れている.

     

    3.波及効果、今後の予定

    本研究成果により,いくつかの未知の断層の存在が明らかになり,地震断層の破壊と火山マグマの存在との関連性が示唆されました.また,熊本地震により阿蘇火山の噴火の危険性が高く,この地震と連動して火山噴火のハザードを再評価することを言及した矢先に,10月8日に阿蘇火山が噴火しました.今回の噴火が熊本地震と直接関連しているかどうかは明らかではありませんが,本論文での提言はある程度妥当性のあるものだったと考えられます.日本列島において,火山周辺域に未知の活断層が多く存在する可能性は大いにあります.また,断層帯はある程度の幅や断層間の連鎖作用をもって存在するため,このような地域は地震・火山災害が起きやすい危険地域と言えるでしょう.本研究の成果は,今後の地震・火山防災研究・ハザードマネジメントなどの基礎になると期待されます.
    本研究では,阿蘇火山地域で複数の活断層が新たに確認されましたが,阿蘇カルデラ内の活断層の調査については不明な部分が多く,地下構造の調査・研究がさらに必要です.今後,阿蘇カルデラ内の活断層の詳細分布,古地震の再来周期,活断層と阿蘇火山の噴火との関係などを解明するため,トレンチ調査を含めて活断層の調査と地球物理学探査や地震活動性などの研究を行う予定です.

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